
ステムリム(4599)2026年7月期 決算深層分析:表皮水疱症P2主要項目達成と脳梗塞P2b結果、2028年を見据えた財務と開発の全貌
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公開日時: 2026/09/11 10:00
Sentiment Analysis

エグゼクティブ・サマリー
大阪大学発の創薬バイオベンチャーである株式会社ステムリムの2026年7月期決算は、同社独自のコア技術プラットフォームである 「再生誘導医薬®」 の実用化に向けた複数の重要マイルストーンの進捗と、今後のパイプライン展開における明暗が示された期となりました。
財務面においては、創薬バイオベンチャー特有の収益構造を反映し、ライセンス契約一時金やマイルストーン収入の計上がなかったことから 事業収益は0円 、営業損失は19億9,800万円 となりました。一方で、期末時点で 53億7,700万円の現預金 を維持しており、月間キャッシュバーンレート(約1.34億円/月)を踏まえると 2028年までの研究開発活動資金を十分に確保 している状態です。
研究開発面では、最主力パイプライン 「レダセムチド(HMGB1ペプチド)」 において極めて重要な進展がありました。栄養障害型表皮水疱症を対象とした追加第Ⅱ相臨床試験(Phase2)において、 4例中3例で主要評価項目である「難治性潰瘍の閉鎖」を達成 し、2028年3月期の上市目標に向けた確固たるエビデンスを獲得しました。一方で、塩野義製薬が主導する急性期脳梗塞を対象としたグローバル後期第Ⅱ相試験(Global Phase2b)では、主要評価項目においてプラセボ群に対する統計学的有意差が認められず未達となったものの、重症患者群における改善傾向など一定の有効性シグナルが確認されています。本レポートでは、同社の財務健全性、各パイプラインの臨床開発動向、および次世代プラットフォームの進捗を多角的に解説します。
1. 2026年7月期 決算概要と財務健全性
ステムリムのビジネスモデルは、基礎研究から非臨床試験・初期臨床試験までを主導し、製薬企業への ライセンスアウト(開発権・製造権・販売権の許諾) を通じて契約一時金、開発マイルストーン、および上市後のロイヤリティを獲得するモデルを採用しています。

財務ハイライトとキャッシュランウェイの検証
上掲の決算概要スライドが示す通り、当期の業績数値および財務状況は以下の通り推移しています。
- 事業収益 : 0百万円(前年同期:0百万円)
- 研究開発費 : 1,499百万円(前年同期比 111百万円増、+8.0%)
- 事業費用合計 : 1,998百万円(前年同期比 33百万円増、+1.7%)
- 営業損失 : △1,998百万円(前年同期:△1,971百万円)
- 当期純損失 : △1,851百万円(前年同期:△1,929百万円)
- 現金及び預金残高 : 5,377百万円(前期末比 1,617百万円減)
当期はマイルストーン達成に伴う一時収益が発生しなかったため事業収益はゼロとなりましたが、研究開発費は14億9,900万円と計画通り積極的な投下が継続されています。一般管理費を含む年間現金支出額は約16億円(研究開発費現金支出14億円、販管費現金支出2.6億円)であり、 月間キャッシュバーンレートは約1.34億円 となります。
期末の現預金残高53億7,700万円に照らし合わせると、 追加の外部資金調達を行わずとも2028年までの安定的な研究開発活動を継続可能な財務基盤 が維持されていることが確認できます。これは、開発中のパイプラインが臨床段階を進む中で、希薄化リスクを抑えつつ研究を完遂するための強固なバッファとして機能します。
2. 主力パイプライン「レダセムチド」の臨床開発進捗
ステムリムのコア化合物 「レダセムチド(開発コード:TRIM2)」 は、骨髄中の外胚葉性間葉系幹細胞を血中に動員し、損傷組織へ集積させて機能的再生を促す革新的なメカニズムを有しています。当期は主要2適応症において重要な臨床試験結果が公表されました。
(1) 栄養障害型表皮水疱症:追加Phase2で主要評価項目達成

栄養障害型表皮水疱症は、皮膚の基底膜を構成するⅦ型コラーゲンの先天的異常により、軽微な刺激で全身に水疱や難治性潰瘍を形成する希少難治性疾患です。ステムリムが実施した追加第Ⅱ相臨床試験(単群、多施設共同、非盲検、非対照試験)において、極めて良好な速報結果が得られました。
- 主要評価項目(難治性潰瘍の閉鎖) : 評価対象4例中3例で潰瘍の閉鎖を達成 し、主要評価項目を達成。
- 臨床所見 : 一部症例において全身の潰瘍面積を含む臨床症状の全般的な改善を確認。
- 安全性・忍容性 : レダセムチドに起因する新たな安全性上の懸念は認められず、良好な忍容性を確認。
本適応症は2023年5月に厚生労働省より 希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ) の指定を受けており、優先審査制度の対象となります。導出先である塩野義製薬の開示情報によると、 2028年3月期までの上市 が計画されており、実用化に向けた開発タイムラインが極めて現実味を帯びてきています。
(2) 急性期脳梗塞:Global Phase2b試験の速報と今後の展望

塩野義製薬が主導する急性期脳梗塞患者を対象としたグローバル後期第Ⅱ相試験(日本、欧州、北米、中国等で実施、合計679例)の結果速報が開示されました。本試験は、発症25時間以内の患者を対象にレダセムチド(1.5mg/kg)またはプラセボを5日間静脈内投与し、投与開始90日後のmodified Rankin Scale(mRS)を評価したものです。
- 主要評価項目(Day 90 mRS) : プラセボ群に対する 統計学的有意差は認められず、主要評価項目は未達 。
- 有効性シグナル : 前相の国内第Ⅱ相試験と同様に、レダセムチド投与群においてmRSの改善傾向が確認された。
- サブグループ解析 : 探索的解析において、 発症時の重症度が高い患者集団でmRSの改善傾向 が示唆された。
- 安全性 : 有害事象の発現率は両群で同程度であり、高い安全性が再確認された。
急性期脳梗塞における統計学的有意差の未達は短期的にはネガティブな要素であるものの、重症患者群における改善傾向というシグナルが得られたことは、今後の適応患者層の絞り込みや開発戦略の再構築において重要なデータとなります。
(3) 虚血性心筋症およびその他パイプラインの進捗
- 虚血性心筋症 : 冠動脈バイパス術(CABG)を施行した患者を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相医師主導治験において、 2026年4月に患者組入が完了 しました。52週後の心機能改善を評価項目として追跡調査が進行中です。
- 変形性膝関節症・慢性肝疾患 : 医師主導Phase2試験が完了しており、次段階の開発・導出に向けたデータ整理が進められています。
3. 次世代プラットフォームと新規パイプライン
ステムリムは、レダセムチドに続く中長期的な成長ドライバーとして、次世代の再生誘導医薬および遺伝子治療技術の開発を加速させています。
次世代幹細胞遺伝子治療「SR-GT1」
患者自身の水疱部位から採取した間葉系幹細胞に、レンチウイルスベクターを用いて正常なⅦ型コラーゲン遺伝子を導入し、水疱内へ投与する根治療法です。
- 製造プロセスの確立 : 開発課題であった幹細胞の 大量培養プロセスの確立に成功 。
- 開発スケジュール : 2026年現在は細胞製造の頑健性検証および非臨床試験(動物実験による安全性評価)が進行中であり、 2028年の治験開始 を予定しています。
新規ペプチドシリーズ(TRIM3 / TRIM4 / TRIM5)
- TRIM3 / TRIM4 : 全身投与型の新規ペプチドであり、現在国内外の複数製薬企業との間でライセンスアウトに向けた導出活動を推進中。
- TRIM5 : 局所投与型の新規ペプチドであり、疾患モデル動物でのデータ拡充を進行中。
4. 知財戦略とグローバル展開
同社は、開発化合物の価値最大化と市場独占権の確保を目的に、グローバルな特許網構築を強力に推進しています。
- 知財実績(2025年8月〜2026年7月) : 軟骨疾患、心筋症・慢性心不全、脂肪肝・NASH、乾癬、表皮水疱症の 5適応領域において合計11件の特許登録が成立 。
- 登録国・地域 : 日本、米国、カナダ、オーストラリア、メキシコ、ロシア、韓国の 世界7カ国・地域 にわたり多面的な権利化を達成。
これにより、レダセムチドおよびSR-GT1のグローバル展開時における参入障壁が強固に構築されています。
5. まとめと今後の注目ポイント
2026年7月期におけるステムリムは、急性期脳梗塞のグローバルP2b試験未達という課題に直面しつつも、 表皮水疱症における追加Phase2の主要評価項目達成 という実用化に直結する大きな成果を収めました。
今後の投資家視点における重要モニタリング指標は以下の通りです:
- 表皮水疱症(レダセムチド) : 塩野義製薬による承認申請プロセスと、2028年3月期上市に向けたマイルストーン達成の時期。
- 急性期脳梗塞(レダセムチド) : 探索的サブグループ解析を踏まえた塩野義製薬の開発方針(対象患者を絞ったPhase3の設計等)の公表。
- 新規ペプチド(TRIM3/4) : 国内外製薬企業との新規ライセンスアウト契約の締結および契約一時金の獲得。
- 資金管理 : 2028年までのキャッシュランウェイ(現預金53.8億円)を維持しながらのSR-GT1治験入りプロセスの進捗。
財務的な安定性を保ちながら、コア適応症の上市と次世代技術の実用化を両輪で進めるステムリムの動向が引き続き注目されます。
個別の投資に関する推奨やアドバイスを提供することを意図しておりません。ここで述べられている意見や見解は、あくまでも各記事の個人的見解です。