
エイチームホールディングス FY2026通期 決算深掘りレポート:暗号資産評価損の影響とM&A主導の中計達成に向けた進捗
StockClub
公開日時: 2026/09/04 09:52
Sentiment Analysis

株式会社エイチームホールディングス(証券コード: 3662)のFY2026通期(2025年8月〜2026年7月)決算は、売上高22,997百万円、調整後EBITDA 1,100百万円、営業利益1,095百万円、経常利益584百万円、親会社株主に帰属する当期純利益359百万円となりました。
本レポートでは、業績の全体像から営業利益・経常利益間の特異な損益構造、主要セグメントの動向、そして「売上高340億円・調整後EBITDA40億円」を掲げる中期経営計画(FY2025〜FY2028)の進捗状況と成長戦略について詳細に解説します。
1. 通期業績ハイライトと損益指標の特異点
通期の連結業績は、前年同期比で減収減益となり、期初予想に対しても下回る着地となりました。
- 売上高 : 22,997百万円(前年同期比 96.2%、予想比 93.9%)
- 調整後EBITDA : 1,100百万円(前年同期比 64.0%、予想比 73.4%)
- 営業利益 : 1,095百万円(前年同期比 129.6%、予想比 121.7%)
- 経常利益 : 584百万円(前年同期比 36.8%、予想比 64.9%)
- 親会社株主に帰属する当期純利益 : 359百万円(前年同期比 34.7%、予想比 60.0%)
ここで注目すべき点は、 営業利益が会社予想(900百万円)を上回る1,095百万円(前年同期比+29.6%)となった一方で、経常利益が大幅に下振れて584百万円(前年同期比▲63.2%)にとどまった点 です。この乖離の主因は、買収したPaddle社に関連する 暗号資産(暗号資産評価損)の会計処理 にあります。

2. 暗号資産価格変動が業績指標に与える影響メカニズム
エイチームホールディングスは、暗号資産ポイントアプリ「Bit Start」「BitWalk」などを運営する株式会社Paddleをグループ化しています。ユーザーに付与するポイントと引き換えるために暗号資産を保有するビジネスモデルであるため、暗号資産市場の価格変動がPLの複数箇所に影響を与えます。
価格下落時の損益インパクト
FY2026期間中、ビットコイン価格は2025年7月末の約1,700万円水準から2026年7月末には約900万円水準へと大幅に下落しました。
- 営業損益への影響(プラス要因) :ユーザーが保有するポイントに対する将来の引き換えコスト見積もりが下がるため、 販売促進引当金繰入額がマイナス(費用減少:△268百万円) となり、営業利益を押し上げました。
- 経常損益への影響(マイナス要因) :保有する暗号資産に対して 暗号資産評価損(599百万円) が営業外費用として計上され、経常利益を大きく押し下げました。
このような暗号資産特有の会計上の変動性を排除し、本来の事業収益性を測定するために、同社は 「調整後EBITDA」 を主要経営指標として導入しています。
3. セグメント別業績動向

同社の事業ポートフォリオは「デジタルマーケティング事業」と「エンターテインメント事業」の2つを主軸としています。
① デジタルマーケティング事業
- 売上高 : 19,138百万円(前年同期比 97.1%)
- 調整後EBITDA : 1,864百万円(前年同期比 87.6%)
D2Cビジネスが好調に推移し下支え したほか、M&Aで取得した企業群(microCMS、Paddle、WCA、Strainer、Signity)が収益に貢献しました。一方で、一部の既存メディアにおいて集客競争が激化し、広告宣伝費の投下抑制や利益確保を優先したポートフォリオ見直しを進めた結果、セグメント全体では減収減益となりました。
② エンターテインメント事業
- 売上高 : 3,858百万円(前年同期比 91.9%)
- 調整後EBITDA : 311百万円(前年同期比 59.9%)
既存ゲームタイトルの長期運用に伴う ダウントレンドが継続 し減収となったものの、運営体制の効率化とコスト最適化を徹底し、 黒字を確保 しています。また、開発リスクを抑える戦略として「オリジナルタイトル中心」から「 協業案件主体 」へのシフトを推進しており、四半期ベースの協業比率はFY2026 Q4時点で 22.6% まで上昇しています。海外売上比率も 38% と高水準を維持しています。
4. 四半期(Q4)の動向と回復の兆し
FY2026 Q4(2026年5月〜7月)単体では、売上高5,754百万円(前年同期比96.7%)、調整後EBITDA322百万円(前年同期比105.2%、前四半期比122.8%)となりました。 デジタルマーケティングにおけるD2Cの増収効果とエンターテインメントのコストコントロールが進んだことで、 調整後EBITDAは前年同期比および前四半期比ともに増益 へ転じており、収益性の底打ち感が示されています。
5. 中期経営計画(FY2025〜FY2028)の進捗と成長戦略

同社は、FY2028に向けた中期経営計画において、以下の野心的なターゲットを設定しています。
- 売上高 : 340億円
- 調整後EBITDA : 40億円
- 営業利益 : 20億円
- M&A投資総額 : 100億円
- 総還元性向 : 期間平均100%以上(還元総額40〜50億円規模)
本計画では「 成長性の向上に向けた成長戦略の遂行 」「 リスク・ボラティリティの低減 」「 株主還元の強化 」の3つを基本テーマとして掲げています。
M&A戦略の進捗状況
成長ドライバーであるM&Aにおいては、中計目標の100億円に対し、 FY2026までに累計5件・33億円の投資を実行 しました。
- microCMS (取得額1,500百万円):ヘッドレスCMS領域の獲得・B2B支援強化
- Signity (取得額1,050百万円):プッシュ通知サービス「PUSH ONE」による集客支援拡充
- Paddle (取得額368百万円):暗号資産ポイントアプリの獲得
- Strainer (取得額240百万円):経済メディアの獲得・法人顧客拡大
- WCA (取得額150百万円):WEBマーケティング運用支援の獲得
累計の接触企業数は293社、トップ面談数は71件に達し、パイプラインの積み上げが加速しています。買収先各社の自立性を尊重する「連邦型(合衆国化)PMI」を推進した結果、 デジタルマーケティング事業売上に占めるM&A取得企業の比率はFY2026 Q4時点で10% に達しています。
ガバナンスと実行体制の高度化
残る2年間で予定される 67億円の追加投資 を規律ある形で実行するため、代表取締役社長を委員長とする「 投資委員会 」を新設し、デューデリジェンスや投資妥当性の審査基準を厳格化しました。同時に専門部隊である「 M&A推進室 」を独立設置し、ソーシングからPMIまでの一貫した実行力を強化しています。
6. まとめ
FY2026は暗号資産価格の下落や既存メディアの競争激化といった逆風を受けたものの、D2Cの成長やゲーム運用の効率化、さらに5件のM&A実行により事業基盤の多角化が進みました。 今後は、新設された投資ガバナンス体制のもとで残り67億円の投資枠を活用した事業取得を推進し、中期経営計画の目標である「売上340億円・調整後EBITDA40億円」の達成を目指す展開となります。
個別の投資に関する推奨やアドバイスを提供することを意図しておりません。ここで述べられている意見や見解は、あくまでも各記事の個人的見解です。