
イーレックス (9517) 2027年3月期 第1四半期決算ディープダイブ:収益構造改革とグローバル脱炭素戦略の全貌
StockClub
公開日時: 2026/08/10 10:42
Sentiment Analysis

イーレックス株式会社(証券コード: 9517)が発表した2027年3月期 第1四半期決算(2026年4月〜2026年6月、IFRS基準)は、日本国内における電力市場価格の上昇および海外事業の順調な稼働向上を背景に、売上高・最終利益ともに前年同期比で拡大する決算となりました。
本レポートでは、公表された決算補足説明資料に基づき、業績ハイライトや部門別動向、経営戦略「利益創出トライアングル」、国内・海外で加速する新規脱炭素プロジェクトの推移までを総合的に解説・分析します。
1. 2027年3月期 第1四半期 決算全体像と業績ハイライト
当第1四半期累計期間における連結業績は以下の通りです。
- 売上高 : 485億円 (前年同期比 +31.0% / 増減額 +114億円)
- 営業利益 : 6億円 (前年同期比 ▲56.6% / 増減額 ▲8億円)
- 税引前利益 : 12億円 (前年同期比 +132.3% / 増減額 +7億円)
- 親会社所有者に帰属する四半期利益 : 8億円 (前年同期は ▲1億円の赤字)
売上高は、卸電力市場価格の上昇に伴う小売販売単価の上昇や、燃料外販量の増加、海外事業の稼働向上等により大きく伸長し、通期計画(2,406億円)に対する進捗率は 20.2% となりました。
一方、 営業利益 は前年同期比で減益となりました。この主な要因は、小売・トレーディング事業における市場価格上昇に伴う 調達価格の上昇 、一時間的な デリバティブ損失 の計上、および前年同期に計上された 開発報酬の反動減 (IFRS調整額▲6億円)です。 しかしながら、営業外で円安に伴う 為替差益 等(金融損益6億円、前年同期は▲8億円の損失)が発生した結果、 税引前利益 は12億円 (通期進捗率 13.4% )、 当期利益 は8億円 (通期進捗率 15.9% )と、最終損益ベースでは前年同期からの V字回復(黒字化) を達成しています。
第1四半期は需要期前で季節的に利益が出にくい時期にあたりますが、第2四半期以降は需要期の本格化、ベトナム先行2案件の黒字化、高圧小売における粗利改善策などを通じて、通期計画達成(営業利益78億円、当期利益54億円)に向け概ね順調なスタートを切ったと整理できます。
2. イーレックスの競争優位性を支える「全体戦略」
イーレックスの事業モデルの強みは、単なる電力小売にとどまらず、燃料調達から発電、電力供給までを一体運営する構造にあります。

【スライド解説:なぜこの「利益創出トライアングル」が重要なのか】
上記スライドは、イーレックスが推進する 「利益創出トライアングル」 と呼ばれるビジネスモデルの全体像を示したものです。エネルギー市場の変動が激しい環境下において、特定のフェーズに依存せず事業全体で収益力を担保する構造が整理されています。
- 上流(燃料) : バイオマス燃料の自社サプライチェーンを構築・確保することで、収益力の源泉となる競争力を維持。
- 中流(発電) : 安価な燃料調達や共同出資を活用した オフバランス化 ・アセットライト化を進め、低コスト運営と脱炭素オークション等の制度活用を推進。
- 下流(小売・トレーディング) : 競争力のある電源調達を背景に顧客基盤を拡大しつつ、AI・データセンターといった 新たな高需要分野 への電力供給とカーボンクレジットを組み合わせた高付加価値化を図る。
この上流・中流・下流の一体運営と、他社資本・事業連携の積極活用により、高い 資本効率 と持続的な 収益性 の両立を目指しています。
3. 国内事業の取り組み動向:小売・トレーディングと蓄電池展開
(1) 小売・トレーディング部門の状況とKPI進捗
第1四半期における小売・トレーディング部門の売上高は 538億円 (前年同期比 +131億円 )、営業利益は 16億円 (前年同期比 ▲3億円 )となりました。
- 高圧小売 : 販売電力量は 664GWh (前年同期比 +5.3% )、売上高は 149億円 (前年同期比 +21.8% )。ホルムズ海峡情勢等を受けた卸電力市場価格の上昇に対し、市場連動プランから 先物を活用した固定プラン 等へのプラン変更を需要家に促すことで、収益(粗利)の改善を推し進めています。契約容量は 1,076MW と計画(1,064MW)を超過達成しました。
- 低圧小売 : 売上高は 79億円 (前年同期比 +9.4% )、供給件数は 27.3万件 (前年同期比 +1.9% )となり、不動産チャネルを中心とした新規獲得が好調に推移しています。
(2) 系統用蓄電池事業の加速
再エネ拡大に伴う電力系統の安定化ニーズに応えるため、 系統用蓄電池事業 への投資を強化しています。
- 宮崎県串間市(第1号) : 2026年8月より、需給調整市場「 一次調整力(オフライン) 」での初回取引を開始しました。今後は二次・三次調整力や卸電力市場、容量市場を組み合わせたマルチ運用により、収益最大化を目指します。
- 京都府亀岡市(第3号) : 出力 2MW ・蓄電容量 8MWh 規模の蓄電所建設に関する投資決定および工事請負契約を締結。2027年度第1四半期の運転開始を予定しています。
4. 脱炭素オークション落札と大規模案件の推進
国内発電事業における最大のトピックスは、長期的な固定収入モデルの獲得です。

【スライド解説:長期脱炭素電源オークションの意義】
このスライドは、2025年度 長期脱炭素電源オークション にて落札した 「イーレックス新潟(仮称)バイオマス発電所」 (出力112MW、2029年度運転開始予定)の事業モデルを提示しています。 本案件の最大のポイントは、 20年間にわたり初期投資・固定費・運転維持費が「容量確保契約金」として回収される仕組み が担保されている点です。制度による「事業安定性」と、同社が培ってきた「高稼働率オペレーション」「自社燃料調達コスト力」という「競争優位性」を掛け合わせることで、安定した固定収入をベースとしながら市場電力販売や環境価値(24/7カーボンフリー電力)による 収益拡大 が期待できます。
さらに、2026年7月には サムスンC&Tジャパン と「新潟統合型脱炭素化プロジェクト」の共同開発に向けたMOU(覚書)を締結し、バイオマス燃料供給、蓄電所事業、AI時代における新たな事業機会の共同検討を開始しています。
5. 海外事業の取り組み動向:東南アジアでの成長戦略
海外部門の売上高は 11億円 (前年同期比 +10億円 )と増加し、東南アジアでの事業基盤構築が着実に進展しています。
(1) カンボジア市場でのプロジェクト
- 水力発電(ポーサット州、80MW) : ダム本体盛り土・導水トンネル掘削が完了し、2026年6月に水門を閉止して 湛水(たんすい)を開始 しました。2027年1月の商用運転開始に向け順調に進捗しています(カンボジア電力公社と 35年間のPPA を締結済み)。
- バイオマス発電(コンポンスプー州、50MW) : 2026年7月、令和7年度「二国間クレジット制度(JCM)設備補助事業」に採択されました。木質残渣を燃料とし、2027年度中の運転開始を目指しています。
(2) ベトナム市場での黒字化施策と石炭火力混焼
- 先行2案件の黒字化 : ハウジャンバイオマス発電所 (20MW、1Q稼働率82%)および トゥエンクアンペレット工場 (年産15万トン)において、稼働率向上、ベニヤ残渣等の安価な原料調達拡大、売電価格の引き上げ交渉を推進中です。
- 既設石炭火力へのバイオマス混焼 : ビナコミンパワー社所有の石炭火力発電所(ナズオン、カオガン)にて混焼試験を実施済み。3基目となる ノンソン石炭火力発電所(30MW) の混焼試験(2026年9月開始予定)が経済産業省の支援事業に採択されました。東南アジアで旺盛な電力需要に応えつつ、脱炭素化を後押しする事業を展開しています。
6. 新規事業の収益見通しとスケジュールロードマップ
今後数年間で稼働を開始する新規プロジェクトの収益インパクトとスケジュールは以下の通り整理されています。

【スライド解説:新規事業の収益・スケジュールイメージの要点】
上記スライドは、現在開発中・立ち上げ期にある国内外の新規プロジェクトが、将来的にどの程度の税引前利益をもたらすかを示した中長期ロードマップです。
- 国内蓄電池(1〜3号機等) : 0.8〜0.9億円/年 の税引前利益寄与(2026〜2027年度順次本格化)。
- ベトナム新設バイオマス(50MW) : クレジット収益のみで 1,000万USD/年(20年平均) の見通し。
- 石炭火力バイオマス混焼(55MW×2基等) : 300万USD/年 の寄与(2026年度以降)。
- カンボジア水力(80MW) : 1,100万USD/年 の利益寄与(2027年1月商用運転開始予定)。
- カンボジアバイオマス・太陽光(50MW+40MW) : 売電収益のみで 800万USD/年 の見通し。
国内での蓄電池立ち上げを皮切りに、2027年度から2028年度にかけて海外大型案件(カンボジア水力、ベトナムバイオマス等)が本格稼働期を迎えることで、中長期的な収益基盤が一段と飛躍する構造が提示されています。
7. 財務状況と株主還元
(1) 連結貸借対照表(B/S)の概要
2027年3月期 第1四半期末の 資産合計 は1,737億円 (前期末比 +36億円)。ベトナム事業の建設仮勘定増加等により非流動資産が増加しました。 負債合計 は972億円 (前期末比 +48億円)、 資本合計 は765億円 (前期末比 ▲11億円)。自己資本比率に相当する 親会社所有者帰属持分比率 は40.7% (前期末41.4%)と、引き続き40%台の健全な水準を維持しています。
(2) 株主優待制度の新設
株式の流動性向上と投資家層の拡大を目的に、2026年5月よりWebサイト 「イーレックス・プレミアム優待倶楽部」 を開設・導入しました。 毎年3月末および9月末時点で 300株以上 を保有する株主を対象とし、保有株数に応じて特設サイトで使える優待ポイント(グルメ、家電、体験ギフト等5,000種類以上)が進呈される仕組みとなっており、株主とのエンゲージメント強化が図られています。
まとめ
イーレックスの2027年3月期 第1四半期決算は、一時的な営業減益要因を含みつつも、 売上拡大と最終黒字化 を達成し、通期目標に向けた着実な歩みを示す内容となりました。 国内小売における市場リスク抑制策、長期脱炭素電源オークションによる20年間の安定収益基盤の獲得、系統用蓄電池の本格運用開始、そしてカンボジア・ベトナムをはじめとする東南アジアでの大型脱炭素プロジェクトの稼働増に伴い、同社の 「再エネ・脱炭素のリーディングカンパニー」 としての成長ストーリーが着実に具現化しつつある状況と言えます。
個別の投資に関する推奨やアドバイスを提供することを意図しておりません。ここで述べられている意見や見解は、あくまでも各記事の個人的見解です。