
【クリングルファーマ】2026年9月期第3四半期 決算ディープダイブレポート:臨床進捗と商業化基盤の確立で「バイオ製薬企業」への移行を加速
StockClub
公開日時: 2026/08/10 10:15
Sentiment Analysis

クリングルファーマ株式会社(東証グロース:4884)は、日本で発見された重宝すべき生体内タンパク質である HGF(肝細胞増殖因子、国際一般名称:オレメルペルミン アルファ) を用いた難治性疾患治療薬の研究開発に取り組む慶應義塾大学・大阪大学発の創薬バイオベンチャーです。
同社が公開した2026年9月期第3四半期の決算資料および開発パイプラインの最新状況から、 業績の大幅な増収 、脊髄損傷急性期における追加治験の開始 、ならびに 声帯瘢痕治療薬の商業化パートナーシップの拡大 など、今後の事業化に向けた極めて重要な進展が確認できます。本レポートでは、決算数値、パイプラインの進捗、今後の成長戦略について多角的に分析し、全体像を詳しく解説します。
1. 2026年9月期第3四半期 経営成績および財務基盤の分析
売上高の大幅増加と損益状況
2026年9月期第3四半期累計の経営成績は、前年同期と比較して収益構造の面で大きな変化が見られました。

上図のスライドに示されている通り、当第3四半期累計期間における 売上高は323百万円 となり、前年同期の53百万円から 約6.1倍へ大幅に増加 しました。この増収の主な要因は、眼科疾患領域でHGFの共同開発を進める米クラリス社に対する 原薬供給および技術アクセスフィーの計上 によるものです。
一方、費用面では、 研究開発費が623百万円 (前年同期は563百万円)、 販売管理費全体で888百万円 (前年同期は792百万円)計上されています。研究開発費の主な内容は、以下の通りです。
- 脊髄損傷急性期の追加治験準備費用
- 米国における開発(IND申請)準備費用
- 声帯瘢痕の第III相臨床試験費用
増収効果により、 営業損失は633百万円 (前年同期は738百万円の損失)、 四半期純損失は631百万円 (前年同期は739百万円の損失)となり、前年同期比で 赤字幅が縮小 しました。通期業績予想に対する売上高進捗率は97.3%に達しており、収益機会の獲得が順調に進んでいることが伺えます。
財務状態と資金調達の進捗
第3四半期末時点における総資産は1,996百万円、現預金は 1,695百万円 を維持しています。自己資本比率は 60.9% と、引き続き良好で安定した財務健全性を保っています。
研究開発を継続するための資金調達面では、EVO FUNDを割当先とする 第16回新株予約権(MSワラント) の行使が進められており、2026年7月31日時点で発行総数の 87.6%(14,900個)が行使完了 し、累計で 641百万円の資金調達 を実現しています。調達した資金は、脊髄損傷急性期の追加治験費用、声帯瘢痕の市販用製剤開発費用、および運転資金へ充当されています。
2. 脊髄損傷急性期パイプラインの進捗と「追加治験」の戦略的意義
クリングルファーマの最優先パイプラインである 脊髄損傷急性期 の治療薬開発では、承認申請に向けた重要なマイルストーンを達成しています。
PMDAとの合意と追加治験のコンセプト
同社は、これまでに完了した第III相臨床試験のデータをもとに独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)と対面助言・協議を重ねてきました。その結果、追加の臨床試験を実施した上で承認申請を行う方針を確定させ、2026年6月に 第III相追加試験の治験計画届出書をPMDAに提出 、7月には調査が完了して試験開始へと移行しました。

上記スライドで解説されているように、今回の追加治験は非常に洗練された レスポンダー(治療効果が得られやすい患者群)の濃縮コンセプト に基づいています。
前回の第III相試験および第I/II相試験のデータを詳細に解析した結果、重症度(AIS分類A)の受傷患者の中でも「脊髄圧迫率70%以上の患者」や「脊髄断裂が強く疑われる患者」といった、よりダメージの大きい症例においてHGF投与による運動機能改善や組織保護効果が明確に発現することが判明しました。
追加治験では、これらの 奏効率が高い特定の患者群を選別して対象と設定 することで、 目標症例数10例 という小規模かつ迅速に実施可能な試験デザインを採用しています。これにより、治験費用と期間を大幅に抑えつつ、試験の成功確度を最大限に高める戦略をとっています。
査読付き国際学術誌への論文掲載と科学的裏付け
2026年7月、本第III相臨床試験の成果が神経外傷分野のトップジャーナルである 『Journal of Neurotrauma』 のオンライン版に掲載されました。 論文中では、HGF(KP-100)投与群において、 MRI画像上の高信号領域(脊髄損傷・浮腫部位)の広がりに縮小・局在化が見られた ことが示され、HGFが持つ 急性期の二次損傷(細胞死や炎症の拡大)を抑える組織保護効果 がヒト臨床レベルで画像的・科学的に実証されました。
3. 声帯瘢痕(せいたいはんこん)治療薬の開発と商業化体制の構築
もう一つの国内レイトステージ・パイプラインである 声帯瘢痕 領域においても、治験の進展と商業化に向けたアライアンスが大きく動いています。
第III相臨床試験の進捗
声帯瘢痕は、声帯粘膜の線維化によって声帯が硬化し、著しい発声障害を引き起こす難治性疾患であり、現時点で有効な根本治療薬が存在しません。クリングルファーマは国内8施設で 第III相臨床試験(65症例) を実施しており、すでに 全症例の組み入れが完了 しています。現在は経過観察期間に入っており、 2027年前半にトップラインデータの判明 が予定されています。
丸石製薬との国内独占的販売権に関する基本合意
商業化に向けた最大のトピックスとして、2026年7月、同社は 丸石製薬株式会社 との間で、 声帯瘢痕治療薬の国内における独占的販売権許諾に関する基本合意書を締結 しました。

上図にまとめられているように、クリングルファーマはすでに脊髄損傷急性期領域において丸石製薬と総販売元契約を結んでいますが、今回の合意により 声帯瘢痕領域においても丸石製薬とのパートナーシップを拡張 することとなります。
丸石製薬は周術期・急性期医療や麻酔科領域に強い基盤を持つスペシャリティファーマであり、全国の救急・基幹病院への流通網を有しています。本合意に伴い、2026年9月には最終契約の締結が予定されており、同社は 契約一時金や開発マイルストーン収入、販売後のロイヤリティ収入、製品供給収入 を獲得する構造が確立されることになります。
4. 中長期的な成長戦略:「3本の矢」とバイオ製薬企業への飛躍
クリングルファーマは、単なる「創薬ベンチャー」から製品を市場に届ける 「バイオ製薬企業」 への成長に向け、明確なロードマップを掲げています。
- 国内で2製品の上市(脊髄損傷急性期・声帯瘢痕)
- 近い将来の国内承認・発売を通じて自社製品による収益化を達成し、上場維持基準のクリアと黒字化への足がかりとします。
- 海外市場へのリーチ
- 米国での脊髄損傷急性期治験の準備を進めるとともに、提携パートナーを通じた欧米・アジア市場へのグローバル展開を図ります。
- 適応症の拡大(線維化疾患全般への応用)
- HGFは「組織保護・再生」だけでなく「抗線維化作用(TGF-β抑制や細胞外マトリックス分解)」というマルチな作用機序を持っています。これにより、 ALS(筋萎縮性側索硬化症) や急性腎障害 、さらには 肺線維症や肝硬変などの慢性線維化疾患 へと適応領域の拡大を目指しています。
5. 総括
2026年9月期第3四半期のクリングルファーマは、 クラリス社との連携による業績面のプラス成長 と、 MSワラントを活用した適切な資金調達 により、研究開発を推進する強固な基盤を維持しています。
パイプラインにおいては、 脊髄損傷急性期の追加治験開始 による確実性の高い承認申請ルートの策定、および 声帯瘢痕での丸石製薬との提携拡大 という、製品化・事業化に向けた実効性の高い施策が着実に結実しつつあります。今後、臨床試験データの蓄積とパートナーシップの強化を通じて、同社の技術と製品が医療現場へ届くプロセスがますます注視されます。
個別の投資に関する推奨やアドバイスを提供することを意図しておりません。ここで述べられている意見や見解は、あくまでも各記事の個人的見解です。