
第一三共 2026年度第1四半期決算ディープダイブレポート:主力ADC製品の強力な伸びと通期上方修正の全貌
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公開日時: 2026/07/31 10:13
Sentiment Analysis

第一三共株式会社(証券コード: 4568)が発表した2026年度第1四半期(Q1)決算および事業進捗について、詳細かつ包括的な分析を行います。本レポートでは、決算数値の背景にあるビジネス要因、主要パイプラインの進捗、通期業績予想の修正内容、並びに中長期の成長戦略について整理・解説します。
1. エグゼクティブ・サマリーと主要トピック
本決算における主要な分析トピックは以下の10項目に集約されます。
- 2025年度連結決算の訂正と第5期中期経営計画(中計)の達成数値
- 2026年度第1四半期(Q1)の連結業績ハイライト(大幅増収・コア増益)
- トップライン成長を牽引する主力ADC「エンハーツ」と「ダトロウェイ」の急速拡大
- 営業利益減益の要因分析(事業再編費用等のコア外費用の影響と先行投資)
- 2026年度通期業績予想の上方修正(売上収益2.34兆円、営業利益3,200億円へ)
- 主力製品「エンハーツ」の販売・適応拡大状況(Q1売上2,192億円、前年同期比41.2%増)
- 次世代柱「ダトロウェイ」の急成長(米国での転移性TNBC 1次治療承認など)
- DXd ADCプラットフォームを中心としたBreakthrough Generating Technology (BGT) 戦略
- 新規パイプライン・Next Wave品目(DS1025、ミムリット、ヴァンフリタ等)の進捗
- 2026年度における今後の主要学会発表および規制当局の審査完了見込み
2. 2025年度連結決算の訂正と第5期中計の振り返り
第一三共は本決算発表にあわせ、2026年7月31日付で 2025年度(2026年3月期)連結決算の訂正 を行いました。販売費・一般管理費等の調整に伴い、2025年度のコア営業利益は訂正前3,600億円から 3,889億円 へ、営業利益は2,291億円から 2,580億円 へ、当期利益(親会社帰属)は2,599億円から 2,797億円 へと上方修正されています。
これにより、終了した「第5期中期経営計画」の目標数値に対する最終実績は以下の通り確定しました。
- 売上収益 : 策定時目標 1兆6,000億円に対し、実績 2兆1,230億円
- がん領域売上収益 : 策定時目標 6,000億円以上に対し、実績 9,540億円
- R&D費控除前コア営業利益率 : 策定時目標 40%に対し、実績 40.1%
- ROE : 策定時目標 16%以上に対し、実績 16.9%
- DOE : 策定時目標 8%以上に対し、実績 8.7%
がん領域の爆発的な伸びが全体を力強く牽引し、中計の定量目標を全面達成する形で第6期中計へと移行しています。
3. 2026年度第1四半期(Q1)連結業績の概要
2026年度第1四半期の連結実績は、トップライン(売上収益)が非常に強力な伸びを示した一方で、一括費用計上等により営業利益・当期利益は一時的な減益となりました。

スライド解説:2026年度第1四半期 連結業績の概要
上記スライドは、2026年度Q1(4月〜6月期)における損益計算書の要約を示しています。なぜこのスライドが重要かというと、本決算の二面性——すなわち 「売上収益の大幅成長・コア実効利益の増加」 と**「構造改革費用による表面上の営業減益」** の構造が一目で把握できるからです。
- 売上収益 : 5,747億円 (前年同期比 +1,001億円 / +21.1% ) 主力である抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」および「ダトロウェイ」がグローバルで順調に成長したことに加え、為替の円安効果(前年同期比 +419億円 )が大きく貢献しました。
- コア営業利益 : 1,073億円 (前年同期比 +63億円 / +6.2% ) 売上原価や販管費の増加を吸入し、本業の収益力を示すコア営業利益は堅調に増加しました。
- 営業利益 : 851億円 (前年同期比 -116億円 / -12.0% ) コア外費用として 222億円 (前年同期は51億円)を計上したことが主な減益要因です。この背景には、将来の収益向上に向けた EUスペシャルティビジネスユニットの事業再編費用(240億円) が含まれています。
- 当期利益(親会社帰属) : 686億円 (前年同期比 -169億円 / -19.7% ) 営業減益に加え、税引前利益の減少および法人税等負担(税率24.9%への上昇)が影響しました。
4. 売上収益および営業利益の増減要因分析
売上収益の増減分析(+1,001億円)
増収の主要なドライバーは以下の通りです。
- オンコロジービジネスユニット : +478億円 (エンハーツ米国+283億円・欧州+75億円、ダトロウェイ米国+115億円・欧州+4億円など)
- 提携に伴う一時金・マイルストン収入 : +152億円 (アストラゼネカから+147億円、米国メルクから+5億円)
- 為替影響 : +419億円 (USD影響+209億円、EUR影響+141億円、ASCA地域+69億円)
営業利益の増減分析(-116億円)
増収による利益押し上げ( +1,001億円 )があったものの、以下の費用増が上回りました。
- 売上原価増 : 385億円増 (売上拡大に伴う原価増および棚卸資産評価損等)
- 販売費・一般管理費増 : 459億円増 (DXd ADC製品のパートナーへのプロフィット・シェア支払いが 363億円増 、その他販管費が96億円増)
- 研究開発費増 : 95億円増 (円安影響および5DXd ADCsやDS3790等の臨床開発投資拡大)
- コア外損益悪化 : 172億円悪化 (前述のEU事業再編費用240億円計上の一方で、小田原工場投資中止関連補償金の引当戻入69億円を計上)
5. 2026年度 通期連結業績予想の修正
Q1の実績推移および足元の事業環境を踏まえ、同社は2026年度の通期業績予想の上方修正を発表しました。

スライド解説:2026年度 連結業績予想の修正
このスライドは、2026年5月時点の公表値に対する今回の修正内容(7月公表)と、その背景要因を詳細にまとめています。投資家が最も注目すべき 「通期の成長トラックの上振れ」 を示す極めて重要なデータです。
- 売上収益 : 2兆2,800億円 ➔ 2兆3,400億円 (+600億円上方修正 ) 修正理由:第2四半期以降の想定為替レートを円安方向に見直したこと(USD/JPY: 150円➔155円、EUR/JPY: 180円➔180円継続。通期平均 USD/JPY: 156.12円)に加え、 米国のエンハーツ製品売上が想定を上回り好調に推移していること が要因です。為替による増収インパクトは約400億円と見込まれます。
- 営業利益 : 3,150億円 ➔ 3,200億円 (+50億円上方修正 ) 修正理由:為替影響(約20億円の増益影響)やエンハーツの売上増に伴う利益拡大に加え、小田原工場の投資中止関連補償金の引当戻入等を反映しました。
- 当期利益(親会社帰属) : 2,600億円 ➔ 2,510億円 (-90億円下方修正 ) 税務上の研究開発費控除額の見直し等により法人税等負担が増加することが影響しています。
6. 主力ADC製品「エンハーツ」および「ダトロウェイ」の進捗
本決算における最大の強みは、同社の看板技術であるDXd ADC(抗体薬物複合体)製品の市場浸透が加速度的に進んでいる点です。

スライド解説:エンハーツ 販売状況のアップデート
このスライドは、グローバル市場における「エンハーツ(ENHERTU)」の四半期売上高推移(FY2024 Q1〜FY2026 Q1)および適応症ごとのトピックスを示しています。業績の根幹を支えるトップラインのモメンタムを確認する上で欠かせないデータです。
- Q1実績(グローバル製品売上) : 2,192億円 (前年同期比 +640億円 / +41.2% ) 地域別では、米国が 1,251億円 (前年同期比 +47% )、欧州が 518億円 (同 +31% )、ASCA(アジア・中南米等)が 304億円 (同 +37% )、日本が 119億円 (同 +42% )と、全ての地域で高い成長率を記録しました。
- 通期予想の引き上げ : 5月公表の8,613億円から 8,949億円 (+336億円上方修正 )へアップデートされました。
- 成長の背景 : 米国において、2026年5月に HER2陽性乳がんの術前療法および術後療法の2つの適応を同時に取得 し、早期から転移性まで幅広い治療ラインをカバーしたこと、さらにHER2陽性の複数の固形がん(がん種横断的適応)での市場浸透が進んでいることが挙げられます。
次世代の柱「ダトロウェイ」の急速な立ち上がり
- Q1実績(グローバル製品売上) : 206億円 (前年同期比 +153億円 / +289.9% )
- 通期予想 : 1,169億円 (+55億円上方修正 )
- トピックス : 米国において、PD-1/PD-L1阻害剤の治療対象とならない転移性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療(TROPION-Breast02試験に基づく)について、2026年5月に承認を取得しました。処方患者数は前四半期比で約1.4倍に増加しており、グローバルで累計約7,000名の患者に投与されています。
7. 研究開発パイプラインと中長期成長戦略
第一三共は、第6期中計において DXd ADC の価値最大化と、それに続く新規モダリティの育成を戦略の柱として掲げています。
- 1st BGT (Breakthrough Generating Technology) の確立
- 5DXd ADCs( エンハーツ 、ダトロウェイ 、HER3-DXd 、I-DXd 、R-DXd )に加え、新規DXd ADCである DS-3939 および DS3790 を展開。これらを1st BGTと位置付け、2030年度に向けて複数の「Next BGT」を見出す計画です。
- 臨床試験の進展と新規適応開拓
- ダトロウェイ : 筋層浸潤性尿路細胞がん(MIUC)を対象としたrilvegostomigとの併用療法評価試験(TROPION-Urothelial04 Ph3試験)を2026年度下半期に開始予定。
- DS1025 : CD25陽性制御性T細胞(Treg細胞)を標的とし、腫瘍内のTreg細胞を除去することで抗腫瘍免疫を活性化する 新規Treg細胞標的ADC 。2026年度上半期に固形がんを対象としたFIH(ヒト初回投与)試験を開始予定。
- Next Wave品目の承認取得
- 日本にて麻しん・おたふくかぜ・風しん予防ワクチン「 ミムリット皮下注用 」の承認を取得(2026年5月)。
- 中国にてFLT3変異を有する急性骨髄性白血病(AML)治療薬「 ヴァンフリタ 」の承認を取得(2026年6月)。
8. 今後のニュースフローと投資家の注視ポイント
2026年度中に予定されている主要な規制当局審査結果および学会発表のタイムラインは以下の通りです。
- 審査結果受領見込み(2026年度上半期) :
- エンハーツ : DESTINY-Breast09(HER2陽性乳がん 1L, Ph3, pertuzumab併用)欧州審査
- ダトロウェイ : TROPION-Breast02(1L TNBC, Ph3)欧州審査
- 主要データの入手見込み :
- エンハーツ : DESTINY-Lung04(HER2遺伝子変異NSCLC 1L, Ph3)2026年度上半期
- ダトロウェイ : TROPION-Lung15(EGFR変異NSCLC 2L+, Ph3)2026年度下半期、AVANZAR(非扁平上皮NSCLC 1L, Ph3)2026年度下半期
- 欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2026年10月)発表予定 :
- HER3-DXd : HERTHENA-PanTumor01(メラノーマ, Ph2)初回データ発表
- I-DXd : IDeate-Lung01(進展型SCLC 2L+, Ph2)データアップデート
- R-DXd : REJOICE-Ovarian01/02(プラチナ抵抗性卵巣がん, Ph2/Ph1b/2)データアップデート
第一三共は、事業再編費用の計上といった短期的な利益押し下げ要因を消化しながらも、主力ADC製品の圧倒的な市場成長を背景に、成長トラックを着実に歩んでいます。
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